2020年4月号:あらすじで読む名作の本棚

2020年4月号のあらすじで読む名作の本棚は

『たいせつなこと』

1910年ニューヨーク州生まれで、編集者を経て絵本作家になったマーガレット・ワイズ・ブラウンの作品であり、1949年の初版以来、多くの人に読み継がれてきたロングセラーです。

その訳者“うちだややこさん”は、内田裕也さんと樹木希林さんの愛娘・内田也哉子さんで、初めての翻訳本です。


本を開くと、タイトルの下に描かれた頁の中に一匹のコオロギの絵、そして下記の言葉が飛び込んできます。

コオロギはくろい トンととんで

ピョンとはねて チリチリないて

なつのよるを ひとしきり うたいあげる

でも コオロギにとって たいせつなのは

くろいということ


続いて見開きの本扉にはグラスやりんごなどの静物画が描かれ、

グラスにとって たいせつなのは

むこうがわが すけてみえること


そのあとには

スプーンにとってたいせつなのは…、

ひなぎくにとってたいせつなのは…、

あめにとってたいせつなのは…、

くさにとってたいせつなのは…、

ゆきにとってたいせつなのは…、

と、つづきます。


そして最後のページに

あなたは あなた

あかちゃんだった あなたは

からだと こころを ふくらませ

ちいさな いちにんまえに なりました

そしてさらに あらゆることを あじわって

おおきな おとこのひとや おんなのひとに

なるのでしょう 

でも あなたにとって たいせつなのは

あなたが

あなたで

あること


こう記されて本文は終わります。

この最後の言葉を伝えるために作者は、この世界の自然や日常の中で目にするもの、手にす

るものを通して、入念にそして丁寧に言葉を紡いできたことがわかります。読者の心に満ちあふれてくるそれぞれの思い…。


レナード・ワイスガードのやわらかで静謐な絵とともに、全編ひらがなだけで綴られていてやさしく一層想像力がかきたてられます。ちなみに、最後に手書きできちんと書かれている「あなたが あなたで あること」という一文は、夫の本木雅弘さんの自筆のようです。


多様性が少しずつ受け容れられてきた世の中で、

あなたが あなたで あること。

自分が自分らしく、でも自分ってなんだろう、、

何か積極的な活動や思考をこらさなければその答えは出てこないような気がしてしまいますが、

もしかしたら

自分が自分としてここに存在していること

そのものが、大きな意義なのかもしれません。

ぜひお手に取ってみてください。


New月刊武蔵野くろすとーく

タウン誌「月刊武蔵野くろすとーく」は、東京都調布市、三鷹市、府中市、狛江市、稲城市など多摩地域に根ざした文化情報雑誌として35年、地元の皆様に親しまれています。 毎月10,000部を発行。

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